花岡 信昭:米国の世界戦略を理解しないと基地問題は語れない

国内では在日米軍基地の移転ばかりが報じられるが‥‥

「2プラス2」の合意自体は歓迎すべきことである。だが、危惧が残る。日米双方の受け止め方に大きなギャップを感じてならないからだ。

アメリカにとって、この合意はブッシュ政権が世界的規模で進める「トランスフォーメーション」の一環である。日本国内の受け止め方は、在日米軍基地の再編縮小という次元にとどまっている。

合意に至るまでに、額賀防衛庁長官が沖縄など基地関連の地元首長と何度も会談を重ねたことだけが報じられた。地元の意向を踏まえた調整が最大の焦点といった視点での報道ばかりであった。

額賀長官の努力は大いに買いたいのだが、あえて言ってしまえば、在日米軍基地の移転などは、アメリカの壮大な世界戦略である「トランスフォーメーション」からいえば、「微々たる話」にすぎないのだ。

それが日本では普天間飛行場のキャンプ・シュワブ沿岸部への移転を筆頭として、メディア報道の中心テーマとなり、そのことばかりが大々的に報じられた。メディアはそれ以外のもっと大事なことを伝えてきたのか。政府は国民に真っ向から語りかけたのか。

今回の「合意」が果たせなければ、深刻な事態に直面していたはずだ。協議がまとまらなかった場合、戦後の日米安保体制そのものに重大な亀裂が生じかねない危機的局面を迎えていたに違いない。それほどの重みのある「合意」であったという認識が日本側にどれだけあるか。

本来は小泉首相がたっぷりと時間をかけて、国民にイロハから説明しなければならない国家的テーマだったはずなのだ。それが、大型連休中のどさくさにまぎれて、というと語弊があるが、なんとも表面的な次元に終始してしまったのである。

(5月17日 日経BP SAFETY JAPAN)

(以下)詳細URL http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/y/08/

大枠において、花岡信昭氏(以下、花岡氏)の主張に同意します。もちろん、「再編負担3兆円」という金額は納税者たる国民にとって純粋に重たいですし、その妥当性について議論するのは国民の義務であるとすら言えましょう。ですが同時に、現在の世界情勢から鑑み、米国の世界戦略とその中に位置する日本のポジションを鳥瞰的かつ正確に把握することも同程度に重要なこと。少なくとも、一部メディアのように金額的負担の重さだけをあげつらったり、該当する地元感情のみをクローズアップすることで本件の評価を局地的なものに終始させることは、大衆をミスリードする愚行としか言いようがありません。

ただ、純軍事的・戦略的な個々のファクターについては花岡氏の指摘通りだと思いますが、個人的に述べたい点が2点ほどあります。1つ目は「小泉首相はじめ政権サイドが米国のトランスフォーメーション戦略について何故十分な説明を国民に行わなかったのか」。これが為されなかった背景についての考証が無いまま、ただ小泉政権サイドの怠慢と切って捨てるのはいかがなものでしょうか。

かのトランスフォーメーションは、極東から中東にかけての「世界の弾薬庫」に対する米国の軍事包囲網の再編戦略です。その戦略の一端を担うと言うことは、日本が日米安保体制よりもさらに突っ込んだ形でコミットすること。竹島問題やガス田問題はじめ特アとの関係が厳しさを増していたかの時期、ことさらに弾薬庫≒特ア包囲網の一端を担うことをアピールするのは、国内だけでなく対外的にもあまり得策だったとは思えません。(今後段階的にその戦略の本質について国民に周知させるという前提付きですが)例えば国民投票法案審議の推移とそれへの影響などを見据えてでなければ、「本音は言いたくとも言えなかった」と見るのが妥当ではないでしょうか。それが国民にとって誠実な態度かどうかは別として。

述べたい点の2つ目は、「米国のトランスフォーメーション戦略における韓国の存在意義について」。花岡氏はこの点について触れていませんが、シーパワー国家:米国は「環太平洋連合(江田島孔明氏)」の構築戦略において、ランドパワー国家群の一端:韓国をその構想から外しています。一方で、シーパワー国家群の一端:日本をその構想に入れました。これは米国が韓国(及び北朝鮮)を防衛ないし直接的な安全保障の対象から外し、ランドパワー大国:中露とシーパワー国家群の「環太平洋連合」との緩衝地帯とすること、その上で日本をその緩衝地帯への最前線と看做していることを示しています。

それはすなわち、米英関係の先にNATOというバッファが存在する英国と比べて、日本が遥かにリスキーなポジションにおかれてしまっているということ。海底資源開発への注力をはじめ、シーパワー国家としての成長ウェイトを更に強めている日本にとって、米国が韓国をどう扱っているかは非常に重要なファクターだと言うことを国民はもっと知るべきだと思いますし、花岡氏もそれに直接触れるか、匂わせるべきだったと神楽は考えます。

地政学―アメリカの世界戦略地図

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