「琴浦さん」第1話「琴浦さんと真鍋くん」&第2話「初めての……」感想 ~ 真鍋君の半端無い主人公力

 普段、神楽は次の3系統のアニメについて、視聴はしても感想は書きません。

  • 原作付きアニメ(原作との差分や、原作の該当部分の映像描写や演出だけ論評しても、あんまり意味が無い)
  • ハーレムアニメや萌えキャラ羅列アニメ(腐含む。萌えるキャラは視聴者各個人で決めればいい。敢えて論ずるに及ばず)
  • 厨二的鬱orSForセカイ系アニメ(厨二的な風呂敷と雰囲気アニメは、視聴時に堪能すればいい。わざわざ反芻して二度論じる必要は無い)

 その結果、感想を書き続けているのが「プリキュア」シリーズだけになってしまったってのは、何故なんだぜ?というのは置いといて、

 上記のマイルールを破って、感想を書きたくなった作品が、今冬現れました。それが「琴浦さん」。原作付きの本作ですが、この作品については、分析ではなく純粋に感想を書き残したいと思います。そう思わせてくれる良作です。

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 まず、第1話。冒頭からの10分間で描かれた琴浦春香嬢@CV金元寿子女史の辛い過去から現在、そして転校先でもその重く暗い空気が彼女を覆う中、真鍋義久君@CV福島潤氏との出会いで、彼女を覆う重い空気が音を立てて割れ、画面が総天然色に戻る瞬間からOPが始まる演出に「ハートキャッチ!」。冒頭10分の大半は、アニメオリジナルらしいですが、これは凄かった。

 そして第2話、嫉妬心などから春香嬢の心にプレッシャーを掛け、「ゲロ浦」にした森谷ヒヨリ嬢@CV久保ユリカ女史らに、男気溢れる啖呵を切る真鍋君と、彼が口にした「本当かどうか分からない好意」よりも、心で感じた「間違いのない優しさ」に涙する春香嬢のシーン。ここの演出もベタだけど、本当に良かった。

 本作の魅力は、最近のアニメでは見られない、真鍋君の「真っ正直な主人公力」の高さでしょう。ハーレムアニメで「今度の相手は誰にしようかな」とフラフラしているイケメン主人公でもなく、自分の置かれた世界における使命感に鬱々としながら悲劇イベントや恋愛イベントを消化していく陰付きヒーローでもなく、「自分の妄想癖や思春期らしいエロスさを隠すことなく、ただ真っ直ぐに自分のポリシーや好意、正義感を貫く等身大の主人公」。そんな一見凡人な主人公が、「人の心を読む超能力以外の力を持たない非力なヒロイン」を守る。これだよ。これ。

 真鍋君と春香嬢の関係を、キョンとハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱や、皆本とチルドレン@絶対可憐チルドレンの関係に擬する向きもありますが、真鍋君と春香嬢を取り巻く環境は、「ハルヒ」や「絶チル」のそれよりも遥かに過酷です。

 何故なら、ハルヒは万能の神であり、性格的にも周囲の悪意を意に介するつもりは無い。チルドレンは超能力が一般に認知された世界に在り、その世界でも投げつけられてくる悪意に対して、壁になるだけの力量を持ち、「天才」という世間からの弾かれ者ゆえに自分たちに当初からシンパシィを感じてくれている皆本という存在が傍にいる。

 それに対して、真鍋君と春香嬢を取り巻く世界は、超能力に対する理解が皆無に等しく、春香嬢に向けられた偏見と悪意に対抗しうる既存/一般認知された手段や力に至っては、絶無です。普通に考えれば、このような過酷な世界で春香嬢は、第1話前半のように内向的/排他的になるか、「絶チル」の皆本に出会う前の腹黒娘のように大人顔負けの処世術を身につけるしかない。

 しかし、本作において真鍋君は、善意と好意と正義感だけで春香嬢を救った。背中に張られた誹謗中傷の紙を敢えてはがさず、再び闇の孤独に戻ろうとしていた春香嬢は、自分が救われたことを知った。そこには、軽薄な絶望や悲壮感は無い。ただひたすらに率直で無償な善意と怒り、好意と感謝があるだけだ。

 「男の子は誰でも正義のヒーローになれる。心に強さと優しさがあれば」「女の子は誰でも幸せなヒロインになれる。心から希望と信頼を失わなければ」。こんな昭和臭ベタベタな、でも平成の世でも通用する高いレベルの恋愛ファンタジーを、こんな不意打ちで堪能できるとは思っていなかったです。気の早い話ですが製作者に感謝感激。

 キャラの配置も、当然原作準拠ですが、「春香嬢の力を利用しようとしているが根は善良」御舟百合子嬢@CV花澤香菜女史と「百合子嬢の心は読めているが、その底にある悲しみや事情も理解している」春香嬢との関係、そして、そんな彼女たち特に百合子嬢を静かに見守る室戸大智君@CV下野紘氏のポジション描写は、まさにパーフェクトだウォルター。

 しかし、繰り返しになりますが、本作をこのように堪能できるのも、ひとえに、真鍋君の「凡人主人公力の高さ」をアニメならではの増幅力で表現し得ている故。製作者サイドには、どうかこの良さを維持しつつ、物語を完走して欲しいものです。

TVアニメーション「琴浦さん」OPテーマ::そんなこと裏のまた裏話でしょ?

TVアニメーション「琴浦さん」OPテーマ::そんなこと裏のまた裏話でしょ?

本作はOPのこちらと、EDの「希望の花」@川嶋あい作詞作曲の組み合わせも、実に良い。春香嬢の心情と彼女を取り巻く環境を、二つの異なる曲調と重なり離れるアプローチで歌い上げさせている。ブラボー。

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