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過去、ゆずるんの演技に凄いと思ったことは何度もあったが、今日以上にアスリートの誇りと強さの存在を感じたことは無かった。
演技に入る直前の眼光の鋭さ、そして、演技が終わり得点が出た直後の号泣の落差に、「頑張ったね」の一言では収まらない怖さを覚えた。
アスリートに限らずだが、超一流とはこういう存在なのかと、今更ながらに思い知らされた。プロは結果だが、超一流とは生き様なのだなと、思い知らされた。一般人に理解可能な現実は、狂気一歩手前の生き様に軽々と凌駕されるのだなと、思い知らされた。
激突の直後にも関わらず、少しでも練習して体を温めようとする羽生の姿は凄かった。一旦は棄権を宣言しながら、羽生の気合いに応えるかのようにFSの演技に挑んできた閻涵の漢ぶりも凄かった。その閻涵を握手を以って送り出し、演技を見守り、そして、自らもフラフラになりながら最後まで演じきった羽生の鬼気迫る姿は、凄まじかった。
今日11月8日、午後9時頃からの約1時間。この時間帯に起こったことを、「感動した」などのありふれた言葉で、外部の媒体に記録することに然程意味はない。「何故強行出場した、させた」などありふれた常識論も、したり顔で口にしたくはない。ただ、この時間帯に繰り広げられた光景を、私は多分一生忘れないだろう。
◇フィギュアスケートGP第3戦「中国杯」男子フリー(2014年11月8日 上海)
前日の男子ショートプログラム(SP)で2位だった男子の羽生結弦(19)は、2位となり、合計237・55点で2位となった。直前の公式練習で中国の選手と激しく衝突、流血するアクシデントに見舞われながらも4分半を演じきり、場内から大きな拍手。逆転優勝はならなかったが、アクシデントを乗り越えてのパフォーマンスを終え、キスアンドクライでは涙をこらえることができなかった。
直前の6分間練習で、閻涵(エン・カン=中国)と正面から激突。顔面からリンクに打ち付けられ、仰向けになるとしばらく動くことができなかった。額とあごから流血、うつろな表情でリンクの外で治療を受けた羽生は、額にテーピング、あごに絆創膏が張られる痛々しい姿で、フリーの演技に入った。
6分間の練習ができず、体も温まってないなか、冒頭の4回転で尻もち、続く4回転も失敗に終わったが果敢に攻めた。着氷が乱れても、転倒してもそれでもジャンプをあきらめない。優勝を狙うソチの金メダリストにとっては不本意な、まさかの内容となったが、不屈の滑りに演技が終わっても拍手は鳴りやまなかった。
(11月8日 スポニチアネックス)
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