堀江流経営に退場宣告、「東証審査甘い」批判も
「株主重視」と前社長の堀江貴文被告(33)が常々語っていたライブドアが、市場からの“退場”を命じられた。
強制捜査から約2か月。証券取引等監視委員会が13日、粉飾決算容疑で同社を告発したのを受け、東京証券取引所は同社株の上場廃止を決めた。急成長をアピールしてきた堀江被告らを信じた株主には最悪の事態となり、同社だけでなく、東証にも「上場審査をもっと厳しくすべきだったのではないか」と批判の声が上がった。
(中略)
上場廃止決定を受け、株主からは落胆と同時に、上場を認めた東証の審査を問題視する声も上がった。
昨年8月、約4000株を約200万円で買った千葉県浦安市の会社員(41)は、「こうなった責任の一端は、粉飾決算をする企業体質を見抜けなかった東証にもある」と批判。約700万円の損失を被った東京都小金井市の無職男性(62)も、「取引所が上場審査を強化したり、上場後もチェックを継続したりする対策を取らなければ、投資家は、マザーズのような新興企業向けの市場から離れざるを得ない」と話した。
昨年、不祥事に絡んで上場廃止となった企業は9社。うち4社がライブドアのように新興市場に上場していた。東証の上場審査部は「社内体制が十分かどうか、上場時に審査しているつもりだ」と釈明している。
(読売新聞)
ライブドアことオンザエッジが東証マザーズに上場したのは2000年4月。そして粉飾事件を起こしたのは2004年以降。上場前の段階で東証にライブドアの本質を見抜けというのは、少々酷な話でしょう。ぶっちゃけ「いちゃもん」です。まして、上場後のチェックは東証ではなく公認会計士マターの業務。今回の事件では該当する公認会計士がライブドア経営陣と同じ穴の狢であることがはっきりしてますし、罪が帰するべきは東証というよりライブドア関係者各人にではないでしょうか。システムの処理能力不足による市場の混乱は別として。
制度上の対策についてですが、一昨年の西武鉄道や昨年のカネボウ事件以来、開示書類の不実記載についての罰則強化はじめ、東証及び市場関係者は既に対策を打っています。今国会でも投資事業組合の情報開示などの規制強化を含んだ金融商品取引法案が提示される予定です。現在の市場環境から鑑みれば、これらの措置は必要十分だと言えます。ことさらに今以上に新しい規制の案件化が必要とは思いません。
もちろん、これらの動きはライブドアショック発生時点から観れば全て後手後手です。ライブドア錬金術の代名詞でもある異常な株式分割劇についても、東証の注意喚起は事後でした。しかし、そのことが直接、証券市場の制度不備を指すかと言えば、神楽はそう思いません。少なくとも今回のライブドアショックが個々の関連制度の不備により引き起こされたものかと言えば、それはNoです。
その理由を述べるにあたっては、先の金融商品取引法についての議論の流れを追いかけると分かりやすいと思います。もともと、投資事業組合のような私募ファンドは「少数のプロ投資家(=自分で分析しリスクも負える投資家)」向けのものであり、第三者向けの情報開示を行う必要性は低い。故に情報開示は制度として強制しなくてもいいだろう、というのが関係者間の最大公約数的な意見でした。しかし、ライブドアが私募ファンドを当初の目的外かつ違法な用途(本体業績の粉飾原資)のために用いるに至り、想定外・全く別の角度から制度の穴が作られてしまった。それを受け改めて情報開示等の必要性が論じらている…というのが現在までに至る顛末です。
2/4の日記にも似たようなことを書きましたが、個々の制度は合法でも、それをある意図の下で連結させると当初想定していなかったような悪しき化学反応を起こすことがあります。古く大きな例としては古代ローマ帝政の成立プロセス、新しく卑小な例としてはライブドアの錬金術がそれにあたります。この場合、重要なのは個々の制度の妥当性追求ではなく、制度を運用する側の意図と立ち振る舞いの正確な把握です。
虫に食われるのが嫌だからと農薬まみれ&遺伝子いじくり放題な危険な野菜を作るのは本末転倒。制度論についてもまた同じです。ライブドア事件とは、詰まるところ2000年のITバブル末期にIPOした問題ベンチャー企業群(当社以外にはクレイフィッシュ、リキッドオーディオなど)の1社が、(当時の)閉塞感からの脱出に焦る世情と時代からの追い風を受け、違法な手法によって制度の穴をこじ開け、好き放題をやっただけの局地的な一暴れに過ぎません。少なくとも、証券市場の制度の不備が彼らを生んだのではありません(放置していた時間が長かったために患部が大きくなってしまったのは悔やまれるところですが)。
故に今回のケースでは、オーバースペックで本体のメリットも殺しかねない予防策より、イレギュラーな害虫を逐次潰していく堅実な対症療法のほうがより効果的と考えます。もっとも、効果的である以上、害虫駆除は徹底的に行うべきなのは言うまでもありません。今回、制度改正の美名の下、そういった地道な駆除処理の有効性から世間の目がそらされないことを祈るばかりです。
そして同じく第二第三のホリエモンを生み出さないために重要なのが、かつての自分達の振る舞いに対して、知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいるマスコミや政治屋連中の罪を我々が忘れないこと。その意味からも、自民党に問題の本質をすり替えさせる口実を与えた民主党の罪は非常に大きいと言わざるを得ませんね。
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